宮内庁式部職楽部 雅楽2012年欧州公演


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世界有数の舞台芸術の祭典であるエディンバラ国際フェスティバル。このフェスティバルを率いるジョナサン・ミルズ監督の強い希望で宮内庁式部職楽部に雅楽公演の招待が舞い込んだのは2年前です。本年になってやっと12年ぶりの欧州公演(通算で戦後8回目の海外公演)の実現に漕ぎつけました。

ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真公演団は相次いで英国スコットランドの首都エディンバラ市に到着し、8月20日には全員が勢ぞろい、公演に向けて準備を開始しました。笙(しょう)という繊細な管楽器の湿度を調整するために火鉢に炭火を起こして舞台で演奏中に使いますが、火災の危険から炭を日本から現地に貨物で運ぶことは認められていません。この日は、事前に注文しておいた現地調達の炭が実際に使えるかどうかの検分から始まりました。幸い炭の大きさ、火の勢いや持続時間も満足できるものであることがわかり、ほっとしました。「地元スコットランドでは適当な炭が見つからず、わざわざイングランドから取り寄せたんだ、合格してよかったよ」と、エディンバラ国際フェスティバルの舞台装置係のチーフが笑顔で言いました。

ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真21日は朝から公演会場であるフェスティバル・シアターに一同集まりました。フェスティバル・シアターは長い歴史を誇るスコットランド最大の劇場で、エディンバラ市の中心地近くのニコルソン通りにあります。

ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真劇場の正面はモダンな総ガラス張りで、石作りの街並の中でひときわ目を引きます。我々が楽屋に着いた時には、前の晩の公演の機材の撤収が遅れてまだ残っている状態で、すぐには我々の機材の搬入ができません。舞台裏の片側にこれから運び出される機材をとりあえずまとめて置き、もう一方の側に我々の機材を置くという交通整理をしてから、徐々に舞台の設営にかかりました。ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真

我々と一緒に舞台設営にあたる劇場側のスタッフはきびきびしていて、日本から同行した株式会社 井手口(舞台設営担当)や宮本卯之助商店(大太鼓設営担当)のスタッフと協力しながら作業を進め、やり直しにも快く応じてくれて、舞台の準備は順調に進みました。

今回の公演では、戦後の欧州における宮内庁式部職楽部による雅楽公演としては初めて大太鼓一対を日本から持って行きました。この大太鼓の響きが迫力を持って客席に届くよう工夫したり、舞人の動きとの兼ね合いで大太鼓の位置を動かしたりして、午後4時に舞台の設営は終りました。

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午後7時からは、安齋省吾(あんざい・しょうご)首席楽長ほかに対するBBCラジオインタビューが行われました。

続いて午後7時30分より装束を着けた形で管弦の申し合わせ―リハーサルのことをこう呼びます―を行いマスコミの取材に公開しました。その後、装束を着けない形で非公開にて舞楽の申し合わせを行い、午後9時過ぎにこの日の作業は終わりました。

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なお、この日のスコッツマン紙のエディンバラ国際フェスティバル行事特集欄に雅楽公演の紹介記事が掲載されました。

22日午前、BBCラジオ3チャンネルの音楽番組により三管三名の演奏収録とインタビューが行われました。安齋省吾首席楽長が龍笛(りゅうてき)、池邊五郎(いけべ・ごろう)楽長が篳篥(ひちりき)、豊剛秋(ぶんの・たけあき)楽師がを演奏しました。

午後7時30分、1900人の観客で満席のフェスティバル・シアターにおいて公演本番が始まりました。本年のエディンバラ国際フェスティバルの全ての公演行事のなかでこの雅楽公演は最初に切符が売り切れ、同フェスティバルの公演会場の中で最も大きい劇場の一つである大劇場の公演としては極めて珍しいことであるとフェスティバル事務局から聞きました。

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ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真田良原政隆(たらはら・まさたか)在エディンバラ日本国総領事からの招待を受けて、エディンバラ市においてエリザベス二世女王陛下の代理を務めるウィルソン・エディンバラ市長夫妻、スウィニー・スコットランド政府財務大臣、ギル・スコットランド最高裁長官夫妻、ブルース伯爵、オーシエ・エディンバラ大学学長夫妻、トラファス領事団長夫妻等多くの要人が出席しました。第1部の管絃と第2部の舞楽の間の休憩時間にはこれら要人を招いて田良原総領事主催のレセプションが行われました。

ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真また、ホールの客席への入り口部分の一部を使って、雅楽紹介の14枚のパネル展示を行い、多くの観客が熱心に見入っていました。

演目は、器楽演奏を中心とした第1部管絃に、優れた和漢の詩に旋律をつけて謡う「朗詠」(ろうえい)の作品の中から「嘉辰」(かしん)を加えました。また、第2部舞楽には、古くから即位の礼を始め、慶賀の宴などに舞われてきた、おめでたい曲である萬歳楽(まんざいらく)を盛り込みました。

公演が始まると客席は非常に静かになり、観客が彼らにとって聞き慣れない管絃と歌に注意を集中して聴き入っている様子が舞台まで伝わってきました。客席の多さにもかかわらず、客席と舞台の距離が近いのが、フェスティバル・シアターの特徴です。客席からは舞台が間近に見え、舞いの動きや装束の美しさが観客全員に手に取るようにわかり、観客は舞人の一挙手一投足に見入っていました。

ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真舞楽の最後の演目である陪臚(ばいろ)が終わると、盛大な拍手とスタンディング・オベーションの中カーテンコールが行われました。舞台にいる者は、客席の感動が押し寄せてくるかのように感じ、強い感銘を覚えました。公演終了後、奥山爾朗(おくやま・じろう)団長、安齋省吾首席楽長、大窪永夫(おおくぼ・ながお)楽長および池邊五郎楽長に対し、「これまで聴いたことのない、この世のものとは思えない規則正しい音楽」(エディンバラ市長)、「美しいだけでなく歴史の重みを感じさせる音楽」(スコットランド財務大臣)、「単純に見える音と舞いの中に全てがある芸術。天皇陛下が今回の海外公演を許可されたことに対し心から謝意を表すると共に、再訪を希望する」(ジョナサン・ミルズ・エディンバラ国際フェスティバル監督)等々、口々に賞讃の言葉が寄せられ、公演は成功裡に幕を閉じました。

なお、公演翌日の23日付スコッツマン紙、ヘラルド紙およびデイリー・テレグラフ紙には、本件公演を高く評価する公演評が掲載されており、我々が客席の反応から受けた感銘を裏書きするものであると感じました。

ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真その同じ8月23日、公演団は二派に分かれてエディンバラからオランダの主要都市アムステルダムに移動しました。オランダでは10年ぶりに「フロリアード2012」という国際園芸博覧会が開催されており、我々の公演は「フロリアード2012」記念と題して行いました。公演会場はアムステルダム駅に近く、アムステルダム旧港沿いに2005年にオープンしたムジーク・ヘボウ(オランダ語で「音楽ホール」の意味)。このホールのガラス張りの壁面のすぐ向こうに大型客船が、船室の中まで見えそうな近さで停泊します。
24日のムジーク・ヘボウとの打ち合わせを経て、25日午前、機材搬入と公演舞台設営を行いました。続いて、午後3時より照明や公演進行の打ち合わせと申し合わせ(リハーサル)を行いました。

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ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真25日は午後8時15分から、26日は午後3時から、それぞれ2時間近くの公演を行い、約700名の座席は各回満席となりました。会場の一隅で雅楽紹介のパネル展示(パネル14枚)を行い、多数の観客が熱心に見入っていました。

演目は、器楽演奏を中心とした第1部管絃に、25日は唐楽器等の伴奏で歌われる民謡を歌詞とする声楽である「催馬楽」(さいばら)の作品の中から最も有名な「更衣」(ころもがえ)という曲を加え、また26日は右に代えて「朗詠 嘉辰」を加えました。また、第2部舞楽の最初に「フロリアード2012」記念として花に因んだ「春庭花」を盛り込みました。(詳しくは曲目解説をご覧下さい。)

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観客は、公演を真剣に鑑賞していました。各回ともに盛大な拍手とスタンディング・オベーションの中カーテンコールが行われました。肥塚隆(こえづか・たかし)在オランダ日本国大使の招待に応えてオランダ各界からは、25日はカンプ社会・雇用大臣、コック元首相、ドナー国家諮問評議会副議長、杉山在オランダ日本商工会議所会頭、26日はガボール・フロリアード2012オランダ政府代表、グリフィス同委員、ロバートソン・ユトレヒト州知事、ボースボーレン海軍中将、ファン・ザーネン・アムステル市長、レンファーリンク・ライデン市長、ヤコブス元在京オランダ大使、在オランダ各国大使、日系企業社長等が参加しました。また、舞台芸術の分野からは、ピエール・アウディ氏(ホランド・フェスティバル監督、ネザーランド・オペラ監督、ミュージック・シアター招聘責任者を兼ねる蘭音楽界の重鎮)、ピーター・ホフマン・アムステルダム・オペラハウス元支配人等が出席しました。終演後、ピエール・アウディ氏からは「真に驚くべき公演」との高い評価が寄せられました。雅楽に初めて接する観客も多く、「オランダではなかなか鑑賞できない伝統的な音楽と舞を鑑賞できて素晴らしかった」、「1千年以上も昔の装束、音楽、舞が今も伝承されていることに感動した」等、一様に高い評価が聞かれました。

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ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真ツアー・レポート写真第1部管絃と第2部舞楽の間の休憩時間と公演終了後に肥塚大使主催のレセプションが各回約150名のVIP招待者を対象に行われ、肥塚大使及び奥山団長より雅楽について簡潔に説明しました。終演後には安齋省吾首席楽長、大窪永夫楽長、池邊五郎楽長を紹介したところ、回りに人垣ができ活発な質疑応答が行われ、雅楽に対する関心の高さが窺われました。

昭和30(1965)年,宮内庁楽部の楽師が演奏する雅楽は,国の重要無形文化財に指定され、楽部楽師は重要無形文化財保持者に認定されました。さらに平成21(2009)年、楽部雅楽は人類の無形文化遺産としてユネスコに登録されました。今回のエディンバラとアムステルダムにおける計3回の公演が大きな成功を収めたことで、雅楽が世界中の一人でも多くの人々の心に届き、広く深く世界に伝搬していく新たな一歩となるものと期待しています。

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今回の公演は文化庁の委託事業として、すなわち文化庁を最大の資金提供者として行われました。国際交流基金からも多額の助成をいただきました。社団法人東京倶楽部の文化活動助成金の交付とKLMオランダ航空からのご協力にも支えられています。これらのご支援とご協力に篤く感謝申し上げます。

最後になりましたが、エディンバラでお世話になった在エディンバラ日本国総領事館の田良原総領事ほか各位、小菅由紀さんと小林美緒さん、メアリー・モートンさん、アムステルダムでお世話になった在オランダ日本国大使館の肥塚大使ほか各位、GPAG社のバッヘルマン夫妻、余郷秀明さんと浜野貴子さん、公演の映像音声記録作成に携わった石川慶さん、山崎大輔さん、小栁光さん、記録写真を撮ってくださったヒューゴ・グレンディニングさん、舞台の設営でお世話になった井出口の皆さん、大太鼓の設置でお世話になった宮本卯之助商店の皆さん、装束でお世話になった大槻装束店の皆さん、そしてエディンバラ国際フェスティバルのジョナサン・ミルズ監督からの招待を宮内庁式部職楽部にもたらし、今回の公演の制作にあたった伊藤事務所の伊藤寿さんに対して、心から感謝の意を表します。ありがとうございました。

公演団長 奥山 爾朗  

※文中の肩書きは平成24(2012)年8月時点のものです。